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高知地方裁判所 昭和57年(ヨ)173号 決定 1982年11月08日

申請人

甲野春子

右法定代理人親権者父

甲野太郎

同母

甲野花子

申請人

乙野夏子

右法定代理人親権者父

乙野二郎

同母

乙野正子

申請人

丙野秋子

右法定代理人親権者父

丙野三郎

同母

丙野昭子

申請人

丁野冬子

右法定代理人親権者母

丁野和子

右四名訴訟代理人

土田嘉平

梶原守光

山原和生

被申請人

学校法人土佐女子高等学校

右代表者理事

木戸耕作

右訴訟代理人

岡崎永年

氏原瑞穂

主文

一  申請人らの本件各申請をいずれも却下する。

二  申請費用は申請人らの負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

一  申請の趣旨

申請人らが被申請人の設置する土佐女子高等学校の生徒たる地位にあることを仮に定める。

二  申請の趣旨に対する答弁

主文と同旨

(当事者の主張)

第一  申請の理由

一  被保全権利

1 被申請人は、私立学校法三条にいう学校法人であり、土佐女子中学校、土佐女子高等学校をそれぞれ設置して学校教育法に基づく中学校及び高等学校教育を行つている者である。

申請者ら四名は、いずれも後記退学処分を受けるまで土佐女子高等学校(以下「本件高校」という)の三学年に在籍していた者である。

2 被申請人は、昭和五七年八月一日、申請人ら四名に対し、申請人らが同年六月二六日午後八時三〇分頃から午後一〇時三〇分頃までの間に、学校外のビヤホール及びスナックバーで生ビール等を飲酒したことから、申請人ら四名を、同人らがいずれも本件高校学則三二条三項一号及び四号に該当するものとして退学処分に付する旨の意思表示をそれぞれなした(以下、右各退学処分を「本件各処分」と、右飲酒に至つた行為を「本件非行」という)。

3 しかしながら、本件各処分は、左記(一)ないし(三)のいずれの点から考えても、懲戒権者の裁量権の範囲を明らかに逸脱してなされたもので無効である。

(一) 本件非行の内容と改善の見込等について

(1) 申請人ら四名が飲酒に至つた経過は、当日が土曜日であつたので、申請人乙野(以下「乙野」という)、同丙野(以下「丙野」という)、同丁野(以下「丁野」という)の三名が高知市の市民文化ホールヘコンサートの入場券を買求めに行くべく約束していたところ、乙野が約束の時間に来なかつたため、丙野、丁野は、乙野を探しに街へ出かけて行つたところ、たまたま高知市堀詰で乙野及び申請人甲野(以下「甲野」という)とうまく出くわした。

そして、甲野が知人の男性と待ち合わせていたので、来合せた男性四名と合流し、男性から誘われるままにビヤホールへ上つて生ビールを飲んだり(但し、いずれもジョッキに半分残した)、その後スナックバーでウイスキーの水割りを飲んだ(但し、飲酒量は極めて小量であり、飲んでいない者もいる)のである。

右のように、申請人ら四名が飲酒するに至つたのは、全くの偶然であり、もとより、これが初めてのことである。

(2) そして、申請人ら四名はいずれも、右飲酒行為に及んだことを深く反省しており、申請人らの保護者もそれぞれ今後の監督について十分手を尽くすことを被申請人に表明している。

したがつて、申請人らが二度と再び右のような行為に及ぶおそれは全くない。

(3) 右(1)及び(2)によれば、申請人らを退学処分に付さなければならない教育上の必要性は全く認められないので、本件各処分は、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱してなされたものであつて無効である。

(二) 他の非行事例についての処分例との不均衡

本件各処分は、次のとおり本件高校及び土佐女子中学校にみられる他の非行事例に対する処分例との均衡から考えても、裁量権の範囲を逸脱してなされたものというべきである。

(1) シンナー吸引

昭和五六年、土佐女子中学校三年生が校内でシンナーを吸つて屋上でふらつき、さらにその後万引をしたのに、停学処分となつただけであり、昭和五四年には、本件高校三年生がシンナーを吸つて真裸になつていたところを発見されたが、同じく停学処分となつただけである。

(2) 売春

昭和五四年、本件高校三年生が売春をしたが、停学処分となつただけである。

(3) 万引

前記(1)の事例のほか、昭和五三年一〇月本件高校一年生が万引をしたが、単に補導を受けたのみである。

(4) 国鉄不正乗車

昭和五六年、土佐女子中学校三年生が国鉄不正乗車をしたが、校長訓戒を受けただけである。

(5) 異性交際、家出

昭和五五年及び同五六年、本件高校一年生が、それぞれ異性交際、家出をしたが、いずれについても懲戒処分はなされていない。

(6) 理事者や有力資産家の子女等の優遇

被申請人の理事長の子女が本件高校の三年に在学しているが、同女は、校則違反の派手な靴下をはいていたことを担任教員に注意された際、右靴下をぬぎこれを丸めて右教員に投げつけるという暴挙に出たが、何らの処分を受けておらず、また、右子女は髪がカールしていても、色つきのヘアーバンドをしていても校則違反に問われず、補導もされていない。

また、ある有力歯科医の子女は、ピアスをしてきても、本件高校の水泳選手で記録保持者の高校二年生は、ロングスカートをはき、金髪をしていても、前同様に校則違反に問われず、補導もされていない。

(三) 申請人らが補導されてから本件各処分がなされるまでの被申請人側の態度について

(1) 被申請人側が本件非行を知るに至つたのは、たまたま申請人らが入つたスナックバーに本件高校の卒業生がおり、その者が本件高校の教員に通報したためであるが、甲野と乙野は一足先に帰途についていたため、丙野と丁野の二名が、かけつけた本件高校の教員森徹ら五名によつて補導されることになつた。

(2) ところでスナックバーへかけつけた森教員らは、丙野と丁野を連れてまず喫茶店に入り、同店内でこもごも大声で、先に帰つた二名の名前を聞き出すべく「はけ!」等と言つて自白を強要し、店員から営業の妨げになるからと制止されると、高知大丸前の公道上へ連れ出し、まだ通行者も多く、物見高く人々が見ている状況であるのに、引き続き二名の氏名の自供を求め、あげくの果ては、高知警察署に連行し、同署で丙野と丁野とを別々の部屋に入れ、教員五名と警察官とが一緒になつて、口汚く、かつ、犯罪捜査的手段をもつて他の二名の氏名の自供を迫り、丙野と丁野とが、深夜の二時頃恐怖と疲労とにたまりかねて二名の氏名を告げると、やつと教員らは、丙野と丁野とをそれぞれ保護者及び保証人の伯母に引き渡したのである。

(3) そして、被申請人は、六月二八日、申請人らの保護者を学校に呼んで説諭すると同時に、「このことは口外してくれるな」等と学校の面子ばかりを重んじる態度に出、六月三〇日本件高校の教頭及び生徒部長を通じていきなり自主退学をされたい旨の通告をし、申請人らが右通告に応じないとみるや、本件各処分に及んだのである。

(4) 右(1)ないし(3)のとおり、本件非行の通報を受けてから本件各処分に至るまでの被申請人側の態度には、その論理においても、その形態においても、およそ教育的配慮のみられないものであつたが、このことから考えても、本件各処分は裁量権の範囲を逸脱してなされたというべきである。

二  保全の必要性

申請人らは、本件高校を卒業したら、それぞれ大学或いは専門学校へ進学すべく準備中であつたところ、右卒業をあと八か月後に控えて本件各処分を受けるに至り、右のような希望が一瞬にして閉ざされてしまつたのである。のみならず、申請人らはいずれも女子であるから、本件各処分によつて受ける不利益は到底右の限度にとどまらず、申請人らの受ける精神的、人格的、社会的打撃は甚大であり、かかる回復不能の損害を避けるためには、卒業時期を八か月後に控えた現在、本案訴訟の勝訴を待つていたのでは間に合わないので、本件申請に及んだ。

第二  申請の理由に対する答弁

1  申請の理由一(被保全権利)の1及び2の事実は認める。

2  同3の冒頭部分及び(一)の事実は全部否認する。

3  同3の(二)中、

冒頭部分と(1)及び(2)の事実は全部否認する。

(3)のうち、本件高校一年生が万引したことは認めるが、その余の事実は否認する。なお、右生徒は自主退学している。

(4)の事実は認める。

(5)の事実は認めるが、いずれの生徒も自主退学している。

(6)のうち、歯科医の子女の行為は認めるが、その余の事実は全部否認する。理事長の子女は本件高校に在学していないし、歯科医の子女は家庭謹慎と停学処分に付されている。また、水泳選手の頭髪は、小学校時代からの長年にわたる水泳練習によりプール用水中に含まれる浄化材の影響を受けて変色しているものにすぎない。

4  同3の(三)中

(1)の事実は認める。

(2)のうち、森教員らが、丙野と丁野に対し、喫茶店、高知大丸前の路上及び高知警察署において、他の二名の氏名と行動について供述を求めたこと、保護者らに連絡し、高知警察署へ右申請人らを迎えに来させたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3)のうち、六月二八日、申請人らの保護者を本件高校に呼んで説諭したこと、六月三〇日自主退学の意思の有無を打診したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(4)の事実は否認する。

5  申請の理由二(保全の必要性)は争う。

理由

第一申請人らの申請の理由一(被保全権利)の1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

第二そこで、本件各処分が裁量権の範囲を逸脱してなされたものであるとの申請人らの主張について判断する。

一懲戒処分の根拠とその性質等について

学校教育法一一条は、校長及び教員は教育上必要があると認めるときは生徒に懲戒を加えることができる旨規定し、同法施行規則一三条三項は、懲戒処分のうちの退学処分に関し、退学処分は当該生徒が①性行不良で改善の見込がないと認められる者、②学力劣等で成業の見込がないと認められる者、③正当の理由がなくて出席常でない者、④学校の秩序を乱しその他生徒としての本分に反した者、のいずれかに該当する場合に行うことができる旨規定している。そして、本件高校の学則三二条三項も、退学処分に関し右規則一三条三項と同様の規定をおいている。

右各規定によれば、懲戒処分たる退学処分が有効と認められるためには、当該被処分者について、右①ないし④のいずれかに該当する事由が認められることと、その者を退学処分に付するについて教育上の必要があると認められること、の各要件を充足することが必要であるが、これらの要件が充足されているか否かを判断するについては、懲戒権者が裁量権をもち、懲戒権者の右の点についての判断が著しく妥当を欠き、その裁量権を逸脱して処分がなされたと認められる場合のみ、当該退学処分は無効となるものと解すべきである。

けだし、そもそも懲戒処分は、教育の施設としての学校の内部規律を維持し、教育目的を達成するために認められる自律作用であつて、懲戒権者たる校長が生徒の行為に対して懲戒処分を発動するに当たり、その行為が懲戒に値いするものであるかどうか、また、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決定するについては、当該行為の軽重のほか、本人の性格及び平素の行状、右行為の他の生徒に与える影響、懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果、右行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素を考慮する必要があり、これらの点の判断は、学校内の事情に通暁し直接教育の衝に当たる者の合理的な裁量に任すのでなければ、適切な結果を期しがたいことが明らかであるからである(最高裁昭和二八年(オ)第五二五号昭和二九年七月三〇日判決・民集八巻七号一四六三頁、同昭和二八年(オ)第七四五号昭和二九年七月三〇日判決・民集八巻七号一五〇一頁、同昭和四二年(行ツ)第五九号昭和四九年七月一九日判決・民集二八巻五号七九〇頁参照)。

二そこで、本件各処分が、懲戒権者の右のような裁量権を逸脱してなされたものといえるか否かについて、申請人らの主張にそつて検討を加える。

1  本件非行の内容等について

(一) 申請人らは、まず、申請人らが本件非行に及んだのは全くの偶然であると主張する。

しかしながら、一件記録によれば、申請人らが本件非行に及んだのは次の経過によるものであると一応認められる。即ち、甲野は、六月二二日頃、友人の結婚披露宴で知り合つた男性と同月二六日(土曜日)の夕刻に高知市堀詰で会う約束をし、同月二三日頃乙野に一緒に行こうと誘つた。そして乙野は、丙野にこのことを話した。これより先、乙野、丙野、丁野の三名は、六月二六日午後六時より県民文化ホールにおいて配付される「グリース」のコンサート前売券を買うための整理券の交付を受けに行こうと同日午後五時三〇分に同所で会う約束をしていたものであるが、同日乙野が約束の時間に遅れたため、丙野、丁野の両名はぶらりと街に出かけるとともに、乙野らが堀詰で男性と会うことを聞いていたので同所に向かい、結局、同日午後八時頃同所で男性四名と申請人ら四名が合流し、申請人らは男性から誘われるままにビヤホールで生ビールを飲み、さらにスナックバーに入り、水割りを飲みながら(但し、飲酒量は小量で、飲んでいない者もいる)、一足先に帰途についた甲野、乙野も午後一〇時過ぎまで、丙野、丁野は森教員らに補導される午後一〇時五〇分頃まで同所で過したものである。

右事実によれば、夜間に街中で男性と会つて行動を共にすることにつき、事前の約束をしたのは甲野であるが、他の申請人らもこれを承知で合流し、いずれも男性の誘いに応じこれを承諾して飲酒に及んだのであるから、本件非行が全くの偶然の結果であるとの申請人らの主張は当たらない。

(二) 申請人らが飲酒に及んだ行為は今回が初めてであること、申請人らがいずれもそれなりに反省し、申請人らの保護者が今後の監督について手を尽くすことを表明していることはいずれも申請人ら主張のとおり一応認められる。

(三) ところで、本件高校は明治三五年私立土佐女学校として誕生して以来一貫して女子教育に携わり、健康な身体と洗練された知性をもつ情操豊かな近代女性を育成することを教育目標とし、その顕現の一として身辺の清潔と清純、品位ある女性となること等を指導方針とし、それをさらに具体化するものとして、二〇有余年前から土佐女子中学校、本件高校の生徒代表と教員が検討し、生徒が学校の内外において守るべき規範として「生徒会申合せ事項」を定め、全生徒にこれを印刷物として配付している。そして、右申合せ事項の「校外生活について」の部分には、夜間外出をしたり、喫茶店に立入ることは原則として禁止され(但し、保護者同伴のときは別)、また、ダンスパーティ、その他風紀上好ましくないところへの出入りをしないこと等が定められている。

したがつて、本件のように、夜間に街中を徘徊し、しかも男性とビヤホールやスナックバーで飲酒するという行為は、右生徒会申合せ事項に明白に違反しており、本件高校の生徒として許されないものである。のみならず、右行為は、前記本件高校の教育目標や指導方針に鑑みると、本件高校の生徒の生活指導に関する根本的な指導方針に明らかにもとる行為というべきである(なお、私立学校は、それぞれ建学の精神に基づく独自の伝統・校風・教育方針とによつてその社会的存在意義が認められるから、右の伝統・校風・教育方針を学則等において具体化し、これを実践することが当然認められるべきであり、生徒としても当該学校において教育を受ける限り、かかる規律に服することを義務づけられているものといわなければならない。前掲最高裁昭和四九年七月一九日判決参照)。

そうすると、まず、本件非行に及んだことについて、申請人らがいずれも学則三二条三項四号にいう「学校の秩序を乱し、その他生徒としての本分に反した者」に該当することが明らかであるというべきである。

(氏名)

甲野

乙野

丙野

丁野

(処分の種類)

停学

(三週間)

停学

(三週間)

停学

(無期)

停学

(二週間)

停学

(三週間)

(停学期間)

56.4.19から

56.5.9まで

56.4.21から

56.5.11まで

57.1.13から

57.2.9まで

56.4.19から

56.5.2まで

56.4.25から

56.5.15まで

(処分の理由)

ディスコへの

出入り、

喫煙

ディスコへの

出入り、

喫煙

無免許運転

ディスコへの

出入り

ディスコへの

出入り、

喫煙

(四) また、一件記録によれば、本件非行の約一年余り前に、申請人らはいずれも左記のように停学処分を受けた身であることが一応認められる。

そして、一件記録によれば、右停学処分を受けた後においても、申請人らは、教員らの熱心な指導にもかかわらず、心の底から真剣に反省し、本件高校の指導方針に従つて一所懸命に努力していたことを窺わせるに足りる資料はなく、逆に申請人らは、いずれも前記申合せ事項に違反したり、朝礼をボイコットしたりして補導を受けているのである。

申請人らが右のような補導歴を有するうえに、今回また本件非行に及んだのであるから、本件高校の校長が、申請人らについて、学則三二条三項一号にいう「性行不良で改善の見込みがないと認められる者」にも該当すると判断したことは、一つの判断として十分首肯するに足りる理由があるのであつて(改善の見込みがないといえるか否かについて他の見解があり得るとしても)、右判断が懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとは到底いえない。

(五) そして、右(三)、(四)の事実を総合して考えれば、申請人らに有利な前記(二)の事実を十分斟酌考慮しても、なお、本件高校の校長が、申請人らを学校外に排除することが本件高校における教育上やむを得ない措置として申請人らを退学処分に付することを選択した判断についても、一つの判断として十分首肯するに足りる理由があるものというべきであり、それが懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとは到底いえない。

2  他の非行事例についての処分例との均衡について

(一) 申請の理由一の3の(二)の(1)及び(2)の各事実は、これを認めるに足りる疎明がない。

(二) 同(3)の事実中、昭和五三年本件高校の一年生が万引をしたことは当事者間に争いがないが、同生徒は本件高校長の勧告に応じて自主退学をしていることが一応認められる。その余の事実はこれを認めるに足りる疎明がない。

(三) 同(4)の事実は当事者間に争いがない。しかし、同生徒が校長訓戒を受けただけであるのは、同生徒が未だ中学生であつたためであり(学校教育法施行規則一三条四項により、中学生に対して停学処分を科すことは禁止されている)、同生徒は、本件高校進学後万引をしたために、自主退学をしていることが一応認められる。

(四) 同(5)の事実は当事者間に争いがないが、いずれの生徒も、本件高校長の勧告に応じて自主退学をしていることが一応認められる。

(五) 同6の事実中、歯科医の子女の行為については当事者間に争いがないが、その余の事実についてはこれを認めるに足りる疎明はなく、右歯科医の子女は家庭謹慎と停学処分に付されていることが一応認められる。

(六) 以上(一)ないし(五)によれば、本件各処分は、本件高校及び土佐女子中学校における他の非行事例に対する処分例と均衡を失しているとは到底いえず、本件各処分が右均衡を失しているから裁量権を逸脱している旨の申請人らの主張の理由のないことは明らかである。

3  申請人らが補導されてから本件各処分がなされるまでの被申請人側の態度について

(一) 申請の理由一の3の(三)の(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二) そして、一件記録によれば、次の事実が一応認められる。即ち、卒業生からの通報により午後一〇時五〇分頃スナックバーにかけつけた森教員らは、補導した丙野、丁野をとりあえず同じビル内にあつた喫茶店へ連れて入り、学年、クラス名、氏名等を確認するとともに、その日の事情の概要と先に帰途に着いた二名(教員らは現場に着いた際、前記卒業生から同伴の二名はすでに帰途に着いた旨を聞いていた)の氏名を明らかにするよう求めたが、丙野、丁野とも二名の氏名を明らかにすること等の供述を拒否した。ところで、森教員らは補導係としての職務に基づく経験上、その場で同伴者の氏名等を明らかにしておかないと、生徒同志が互いに連絡をとり合い、真実を隠し合うことが行われ、教育的見地と処遇の公平等を期する見地から問題があることを痛感していたので、何とか同伴者の氏名等を明らかにしてもらおうと考え、丙野、丁野をそれぞれ交替で喫茶店の外の道路上に連れて行き、右二人を別々にして供述を求めてみたが、右両名はかたくなに供述を拒否した。そしてこのように喫茶店を出たり入つたりしたこと等のため、同店から迷惑がられたので、場所を変えざるを得なくなつたが、本件高校は夜間は警備保障会社に管理委託しているため使用することができないので、森教員らは、かねてから非行問題等について「高知警察署管内学校警察連絡協議会」「学警連」等の組織をとおして協力し合うことになつている高知警察署少年課の係官に連絡して同署内の場所を借りることもやむを得ないと考え、右の連絡をとつたうえ同署に赴いた。同署に着いたのは、午前〇時頃であつたが、森教員らは、丙野、丁野らに対し引き続き二名の氏名等を明らかにするよう供述を求めるとともに、丙野の保護者と丁野の保証人の伯母(保護者が土佐清水市居住のため)に連絡して申請人らを迎えに来るよう要請した。

そして、丙野、丁野の順で二人とも同伴者の氏名を明らかにするとともにその日の事情の概要について供述したので、丙野は午前一時一〇分頃、丁野は午前二時一〇分頃に、それぞれ保護者、保証人と一緒に帰宅させた。

申請人らは、高知警察署において教員五名と警察官とが一緒になつて申請人らに対し、口汚く、かつ、犯罪捜査的手段をもつて他の二名の自供を強く迫つたと主張するがこれを認めるに足りる疎明はない。

そして、甲野、乙野については、二七日(日曜日)中に各ホーム主任が訪問して事情を聴取し、六月二八日に申請人四名と保護者を学校に呼んで説諭し、とり合えず家庭で謹慎するよう命じるとともに、学校内部で申請人らの行為について種々の検討を加えた結果、忍び難いが自主退学の勧告もやむを得ないということで職員全員の意見が一致し、申請人四名とその保護者に対し、六月三〇日に自主退学の意思の有無を打診し、七月三日に本件高校長より、自主退学を勧告し、勧告に応じない場合には退学処分を行う旨通告し、申請人らが自主退学に応じなかつたため、本件各処分に及んだものであることが一応認められる。

(三) 右認定事実によれば、なるほど森教員らは、丙野、丁野を補導した現場においてその日の事情の概要と同伴者二名についての供述を求めることに執着し過ぎたきらいがなくはないけれども、これも前記のように森教員らが補導係としての職務の経験上、その場で非行の概要と同伴者氏名を明らかにしておかないと教育的見地や処遇の公平の見地から問題があることを痛感していたためであり、このことは十分な理由があるものと思われる。また、申請人らは、森教員らが喫茶店や公道上や警察署において供述を求めたことを違法と論難するが、その日は時間も午後一一時過ぎており、学校が前示の理由で使用できなかつたこと等を考慮するとやむを得なかつたものと思われる。また申請人らは時間が深夜に及んだことも問題にするが、これも、丙野、丁野の両名がかたくなに供述を拒否していたことと、供述を求めた時間自体が長時間にわたるものではないこと等を考えるとやむを得なかつたものというべきである。

したがつて、丙野、丁野両名を補導した際の補導現場における教員らの行動等から直ちに本件各処分がその論理においても教育的配慮が見られなかつたと断じるのは早計であり、前示第二の二の1の(三)及び(四)記載の事実に鑑みれば、申請人らを本件各処分に付するのが相当であるとした本件高校長の判断がその裁量権の範囲を逸脱したものとは到底いえないものといえべきである。

第三以上のとおりであるから、申請人らの被保全権利に関する疎明はないことになり、その余の点について判断するまでもなく、申請人らの本件各申請はいずれも理由がないことに帰するのでこれを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(山口茂一 増山宏 久保雅文)

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